Pagoの部屋

ようこそPagoの部屋へ。管理人は、とっくに3人の子育てを終えたアラフィフ主婦です。大好きな絵本や食べること、そして心に沁みたことなどを記事にして綴っています。

春風みたいな美容師さんのこと

 

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長女が3歳で、次女が1歳頃のことです。

 

ある日の日曜日、わたしは美容院の予約を入れていました。両親も離れて住んでおり、主人の両親はさらに遠くに住んでいて、気軽に子どもを預けられるところがありませんでした。それで主人が休みの日曜日に美容院へ行くことが、わたしの当たり前となっていたのです。

 

その日、予約の時間に合わせて家を出ようとしたときのことでした。お昼寝をさせたはずの長女が起きてしまいました。

 

「〇〇も行くーっ!」と長女がしがみついてきました。いつもなら聞き分けのいい方なのですが、お昼寝が足りなかったのか「すぐに帰ってくるから待っててね」と言っても聞き入れず、めずらしいことに、わあわあと泣き始めたのです。

 

その騒ぎに次女まで目を覚まし、泣き声の二重奏が始まりました…。必死でなだめる主人は、日ごろ仕事が忙しくあまり子どもと接することができないため、泣かれることに慣れていません。それで、すっかり困り果てていました。

 

美容院の予約の時間が迫っていましたし、週に一度の休みがやっとあるかないかの主人に泣きぐずる娘ふたりを押し付けて出かけることは、気が引けました。なので「何とかなるわ」と、わたしは娘ふたりを連れて美容院へ向かったのです。

 

長女は行く道で約束した通り、美容院へ着いてからは、ひとことのわがままも言わず、だだもこねず待合の席に座っていました。わたしがカットしてもらい、シャンプーをしてもらい、ブローが終了する最後まで、一度も席を立たず持ってきた絵本をながめたり、鏡に映るわたしにニコニコと手を振ったりしていました。

 

問題は眠り足りないままの次女でした。美容院に着いてからも磁石のようにわたしにくっついたままでした。待合の椅子に座らせようとすると、ぐすぐすとぐずります。困ったなあと思っていると、美容師さんは「おちびちゃんも一緒にどうぞ」と席に案内してくれたのです。

 

いつも通っていた美容院でしたが、その美容師さんとは初対面でした。わたしは、次女をひざにすわらせた状態で、ふわりとケープをかけてもらいました。二人羽織ではありません。二人ケープです。

 

「終わるまで、じっとしていてね」この言いつけは、小さな次女も守りました。守ったと言うよりも、見たこともない大きな鏡に自分と母であるわたしが映っていることに、眠気もふきとび上機嫌になったようでした。

 

美容師さんは、次女にカットした髪がかからないように、たえず注意をはらいながら、わたしの髪をカットしてくれました。チョキチョキとハサミの動く音を目で追う次女にたくさんの笑顔を向けてくれました。

 

そして、最後に「おちびちゃんもね」と、次女の前髪をほんの少しだけつまんでカットしてくれたのです。「チョキッ」その音に次女は目をぱちくりさせてから、とても嬉しい顔をしました。もう20年以上前のことですが、わたしは今もそのときの次女の嬉しそうな顔が忘れられません。

 

そのあとは、次女もご機嫌で長女と並んで座り、おとなしくわたしを待つことができました。わたしがシャンプー台へ向かうとき「〇〇、△△を見ていてね」と声をかけると、「△△ちゃん、ねえねのとこに、おいで」と長女は次女を呼びました。

 

すると、磁石のようだった次女は椅子に座らせると、すんなりわたしから離れたのです。そして、シャンプーを終えブローが終わるまで、長女とふたりでおとなしく椅子に座って絵本をながめながら、わたしを待つことができたのです。

 

美容院へ行くときは、幼い娘ふたりを連れて行かなければならなかったので少し気が重く、美容院のドアを開けたときは、申し訳なくて本当にごめんなさいの気分で、わたしは小さく縮こまっていました。それなのに帰りはとてもしあわせな気持ちに包まれていました。

 

もちろん、ボサボサだった髪がすっきりとして、軽やかだったためもありますが、ずっと笑顔で、次女をひざにすわらせたままのわたしの髪をカットしてくれた美容師さんのおかげです。「おちびちゃんもね」と、次女の前髪をひとつまみ切ってくれたハサミの音が、心地よく耳に残っていたからです。まるで春風のように、やさしくてさわやかな美容師さんでした。

 

わたしは、今でもその美容院で髪を切ってもらっています。娘たち、そして息子も生まれる前からなので、30年近く通っていることになります。店の主であるマスターは、ずっと同じですが、春風のような美容師さんは居ません。あの頃に、2~3ヶ月だけ臨時で雇われていただけでした。

 

ですから、わたしが春風さんに髪をカットしてもらったのは、その日が最初で最後だったのです。だけど、あと一度、わたしとふたりの娘は、春風さんと関わる出来事がありました。その話は後日また、別の記事で書きたいと思います。