小さなお兄ちゃん

「何やってんの! さっさと起きなさい!」

 

駅へ向かう一本道を歩いていると、前方から大きな声が聞こえてきました。目をやると若いお母さんが自転車にまたがったまま、後ろを振り返っていました。厳しい声で叱られていたのは、幼稚園の年長さんぐらいの男の子。細い道のはしっこで、自転車ごと大きく傾いていました。

 

男の子は、体勢を整えようと足をふんばっているのですが思うようにいかないようで、グラグラと左右に揺れ、ペダルこぎだすことがなかなかできません。サドルが少し高すぎて、地面に両足をつけられないのです。補助輪を外して、まだ間がないのかもしれません。

 

「もう、早くしなさいって、いってるでしょ!」

 

さらにきつくなったお母さんの声に、何だかわたしまで怒られているようで泣きたい気持ちになりました。お母さんの自転車のハンドルに取り付けられた子ども用の椅子で妹なのか弟なのか、その騒ぎも知らず眠りこけていました。

 

片足を地面につけて、その重さを支えているお母さんも大変だったと思います。

 

お母さんは、男の子のそばに近づきもせず、ただ見守っていました。

 

駆け寄って男の子を助けてあげたい気持ちを抑え、わたしは視線をはずしました。

 

自転車にまたがったお母さんとすれちがい、少し進んで、まだグラグラしながら片足だけを地面につけている男の子に近づきました。どうしても目の端に映ってしまうのですが、知らんぷりを通しました。

 

泣きもせずひとりで自転車をこぎだそうと頑張っている男の子…。

余計な手出しは、要らぬおせっかいです。

知らんぷりを決め込んではいても、わたしの歩調はゆっくりになっていました。

 

車道の方へ倒れこんできたときには、手を出そう…と思いながら。

 

次の瞬間、男の子はバランスを立て直せたのかペダルをこぎだして、わたしの横を通り過ぎたのです。よかったぁと思いながら振り返ると、男の子はお母さんの自転車の後ろにぴたりとついて、そのあとすぐに速度をゆるめたお母さんの自転車の前に出ました。

 

その小さな背中を見送った、わたしの目頭が熱くなりました。

 

「頑張れ! 小さなお兄ちゃん」

 

つい先日の暖かな日の……。ほんの1~2分の出来事でした。。。

ご訪問ありがとうございました。。。♪